ノスタルジックシンドローム と プルースト効果
Ⅰ
「ノスタルジックシンドローム」
"現在の状況に関わらず強制的に記憶を呼び起こし、思い出で支配される瞬間である。嗅覚が最も強い影響をうけ、次に聴覚が強い影響を受ける。視覚、触覚、味覚ではまだ経験がない。"(Lizardryの個人的呼称及び造語)
「ノスタルジックシンドローム」という言葉に落胆したのは、いつの日だろうか。
学生時代、東南アジア等外国へ赴いてはぶらぶらとバックパッカーの様な事をしていた。その時訪れていた街の臭いが、今でも忘れられない。
正確に言うと、忘れられないのではない。普段は意識もしないし思い出しもしない。
記憶の奥底にしまってある、「思い出の箱」を開ける鍵として植え付けられている。
その時と似た臭いを、日本でも時々嗅ぐことが出来る。
排気ガス、油、ゴミ、食事、etc...
現代の人間の生活が濃縮されたような、不快な臭いである。
その臭いを嗅ぐと、強制的に「思い出の箱」が引きずり出されて開いてしまう。
ツンとした臭いと蒸し暑さ、鳴り響くクラクション、お経を唱える音、何かの鐘の音。ありもしない景色が広がり、やがて現実に引き戻される。
どんな人と居ても、どれだけ考え事をしていても、どれだけ喜びに満ち溢れていても、どれだけ不安に駆られていても、強制的なこの反応を「ノスタルジックシンドローム」と勝手に名付けていた。

Ⅱ
「プルースト効果」
"作家プルーストは紅茶に浸したマドレーヌのにおいによって,忘れていた幼少期の記憶をありありと思い出したという。このように,におい手がかりが主な引き金となり,失われた過去の記憶が甦る現象は,一般的にプルースト現象と呼ばれる。"(山本晃輔 (2008). におい手がかりによる自伝的記憶の検索過程. 日本心理学会誌, 79(2), 159-167.)
私は街の不快な臭いで「ノスタルジックシンドローム」を経験していたが、フランスの作家 " マルセル・プルースト " は『失われた時を求めて』という小説で、マドレーヌの匂いと味を用いて表現していた。1913-1927年の本である。
主人公は夢と現実の狭間で、マドレーヌの匂いと味から記憶が蘇る。
無意識的記憶が蘇るシーンにとても共感したのを覚えている。
ちなみに、私Lizardryはこの本を読破できていない。理由は『失われた時を求めて』を調べれば分かると思う。
Ⅲ
『私』と『失われた時を求めて』相違点は、聴覚と味覚だが、どちらも嗅覚で共通している。
嗅覚は他の感覚(視覚や聴覚)と比較して記憶との結びつきが強いらしい。嗅覚が海馬に直接影響を及ぼすからだそうだ。海馬は記憶等を司る脳の部位である。
そして世間では「ノスタルジックシンドローム」ではなく、「プルースト効果」と呼ばれている。その事を知ったのは、「ノスタルジックシンドローム」について経験し、勝手に命名し、思いを馳せてから暫くたった後のことだった。
初めてその事について知った時、落胆したと思う。
自分だけが知っているものではなく、自分が何か命名できた訳でもなく。ただ自分が無知なだけで、以前からそこら中にあったのだと。
新しさなどそこには無かったのだと。
子供の頃。世界地図やグーグルアースを見て落胆したことを思い出す。
地球上は全て知り尽くされていて、インディージョーンズみたいな事は起りえないんだと落胆したのだ。実際はまだまだ未知の世界であると知るのには、もう少し年月がかかる。
Ⅳ
生きていく中で、前述した理由でしばしば落胆してきた。
無知を晒して勝手ながら。
只、「ノスタルジックシンドローム」は今でも自分の中で1つのテーマとして存在している。
それは、この単語に行きつくまでの過程が存在したからである。
結果としては「ああ、プルースト効果ねw」と一蹴されてしまうものであったが、そこに行きつくまでの過程は美しいものだったと思う。
何処かの言葉を自分のものにしたわけではなく、誰かの解釈を自分のものにしたわけでもない。経験して、自分で感じたことに疑いは無い。
そこにはGoogleで検索するよりも、もっと大切な何かが詰まっていると信じたい。
だからこれからも新しい物を追い求めるし、過程を大事にしたいと思う。
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